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2024.10.22
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AIコンシェルジュ
導入事例
昨今、カスハラ(カスタマーハラスメント)という言葉が広く知られるようになり、テレビや新聞などでも社会問題として大々的に取り上げられるようになってきました。しかし、カスハラの認知が進んでいるのにも関わらず、未だに多くの企業では悩みの種となっています。
東京商工リサーチが2024年8月上旬に実施した、約5,700社を対象にした企業向けアンケート調査では、「カスハラ」を受けたことがある企業が約2割であると報告しています。しかし、同時にカスハラの対策を行っていないと回答した企業は7割を超え、カスハラの対策は進んでいない、あるいは、現場任せであることが実態として明らかになっています。
コールセンター業界も例外ではありません。1時間を越える通話対応に追われてしまい、休憩時間や業務時間を超過してしまうことも少なくありません。また、通話中の顧客の感情が高ぶってしまい、暴言を吐かれたり、不当な要求をされて、オペレーターが精神的に疲弊してしまい、休職や離職といったリスクにもつながってしまいます。
そこで、この記事ではコールセンター業界におけるカスハラ問題について解説しながら、カスハラ対策として期待される3つの最新AI技術をご紹介します。
一般的にカスハラが社会問題になったのは、インターネットの発達、特にSNS(ソーシャルネットワーク)が原因であると考えられています。SNSで個人が強い発言権を得たことにより、顧客が企業を批評・弾劾することが可能となったため、企業が顧客の要求に屈しやすくなってしまいました。また、もともと日本には「お客様は神様」といった言葉があるように、顧客に丁重に接するという文化も助長し、顧客側が優位に立ち振る舞うことができるようになっていたという構造もありました。
さらに、2019年からのコロナ禍の影響で、マスク着用の徹底やロックダウンをはじめとした社会全体が抑圧された状態となっていました。前例のないルールや鬱屈とした雰囲気の中、顧客が過度なストレスを抱え込みやすい環境要因もありました。このような背景から日本社会においてカスハラが横行しやすい仕組みが出来上がっていったと考えられます。
そうした事態を打破すべく、2022年度に厚生労働省が『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』を公開しました。マニュアルの中でカスハラの定義と対応方法について説明し、企業が積極的に取り組んでいくように奨励されました。この資料公開により、メディア等を通じて、カスハラが社会問題として広く認知される転換点となりました。
また、2024年5月に『東京都カスタマーハラスメント防止条例』が制定へと動いていると報道され、法的拘束力を持つようになりうるということで注目が集まりました。罰則が設けられると決定されたわけではないものの、条例を根拠にカスハラを行う顧客への情報開示請求や、企業が労働者を守っていないとして安全配慮義務違反の対象になる可能性があります。
コールセンターにおけるカスハラの問題は深刻で、コールセンター情報誌「月間コールセンタージャパン」ではコロナ流行以前から重大課題として過去に度々取り上げています。
コールセンターは、音声のみのコミュニケーションが主で、相手の顔を見ながら会話できないため、顧客とオペレーターの間でコミュニケーションの不一致が発生してしまうと、温度感が高くなってしまうことも少なくありません。現に弊社で運営するコールセンターでも、辛辣な言葉を投げかけられたという方や、堂々巡りの会話で長時間拘束されたと報告するオペレーターがいました。
また、コールセンターではCS(顧客満足度)向上の観点から、VOC(顧客の声)収集目的として、クレーム対応もオペレーターの業務として制定している会社もあります。しかし、苦情とカスハラを区別するのは非常に困難ですし、現場から属人的な対応を求められる場合、SV(スーパーバイザー)やセンター長へエスカレーションができず、対応者が苦しい思いをしてしまうこともあるそうです。
さらに、ここ近年のコールセンターでは採用難・人材不足も大きな課題であり、カスハラからオペレーターを守る組織の仕組みができていない場合は、オペレーターの休職や離職だけでなく、配属企業及びコールセンター業界の評判を落とす原因にもなりえます。特に非正規雇用の多いコールセンターでは SNS上の「コールセンターはきつい」「クレームの対応がしんどい」といったネガティブな意見が拡散されると、求職者が「できればコールセンター以外で」と派遣会社に要望を出すことも多く、採用難の悪循環となってしまいます。
このように、カスハラの問題はコールセンター業界では深刻な問題となっており、顧客と応対者のみといった小さな枠組みで収まらないことがおわかりいただけたと思います。
組織としての対応も非常に重要ではありますが、同時にオペレーターをカスハラから守る技術も日々開発されています。ここからは実際にカスハラ対策として期待されるAIソリューションを3つ、活用シーンや事例を交えつつ紹介します。
カスハラへの対策として、対話型AIのボイスボットに窓口の一連の応対を任せてしまうという方法があります。ボイスボットが自動音声で電話対応をすることで、利用者もAIだと取り入ってもらえないということを理解してもらえるため、カスハラの発生を抑制することが可能です。
また、ボイスボットであれば、心理的なケアの必要なく淡々と業務をこなすことが可能ですので、効率化という面でも心強いです。そのため、人間とボイスボットのそれぞれの強みを生かして業務分担をすることでコールセンターの効率を最大化することができます。
手前みそで恐縮ですが、いくつか弊社のボイスボットの導入事例をそれぞれインバウンドとアウトバウンドの観点からご紹介いたします。
インバウンド業務では電話をいつでも受けれるように、人を張り続けなければならないため、問合せ内容にかかわらず拘束されてしまうという根本的な問題があります。さらに繁閑や窓口の人数によっては、顧客を待たせてしまい、応対内容次第では「こんなに待ったのに課題が解決しなかった」と負の感情を募らせ、カスハラを助長する恐れがあります。
そこで、ボイスボットを使うことで窓口の無人化だけでなく、入電数に応じて窓口を増やしたり減らすことが容易なため、顧客を待たせることなく応対が可能になります。また、ボイスボットのみで対応できる業務であれば、24時間365日受付できる窓口にすることもできます。顧客が営業時間を気にせず問合せが可能になることで、利便性がアップするため、CSの向上にもつながります。
弊社のガス業者様の導入事例では、住民の入退去に伴うガスの開閉栓の窓口業務でご活用いただいています。ボイスボット導入以前は、「開栓の即時対応」などの無理な要求をされるケースも多く、オペレーター対応の長時間化とそれに伴う精神的な負荷が課題となっていました。当時の何十人といたオペレーターをすべてボイスボットに置換することで、これまで「人であれば聞き入れてくれるだろう」と無理な要求を行っていた顧客も「AIに要求しても意味がない」と理解してもらえるようになったため、最終的にはボイスボットの提示する本来の応対の流れにそって、対応完了するようになりました。ボイスボットがすべて対応するため、当たり前ではありますが、結果的にこの窓口でのカスハラ問題は解消しました。また、定型的な業務をボイスボットに任せることによって、より柔軟な対応が必要な業務や人にしかできない業務に人員配置ができるようになり、オペレーターの生産性をあげることにも成功しました。
このように、インバウンドでのボイスボットの導入では、カスハラ対策と生産性の向上を同時に行うことができるため、ボイスボットの活用は非常に効果的と言えます。
アウトバウンド業務でもボイスボットは活用できます。特に督促に代表される金銭が絡む業務では、お客様の温度感が最初から高く、カスハラのリスクが非常に高いです。さらに督促は架電数が多く、一度でもクレームやカスハラが発生すると業務が滞ってしまいます。そのため、AIでクレーム・カスハラを抑制することは非常に効果的です。
弊社のボイスボットでは、住民税などの料金未払いのお客様へAIが電話でご案内いただくといった利用をされています。ある自治体様では、導入後に住民税の納付率が前年から10%以上増えたと報告をいただいています。督促の事例について、いくつかプレスリリースを出させていただいていますので、下記も合わせてお読みください。
AI音声変換は会話の内容はそのままに、顧客の声をAIによって別の声へと変換するソリューションです。しかし、単純なボイスチェンジャーのような、声の高さや音量を下げるだけでなく、声からトーンや抑揚を省くように音声加工することで、人間が「怖い」と感じる声の成分をできるだけ削除しているそうです。
このソリューションを2025年に実用化を目指すべく、ソフトバンクと東京大学が『Emotion Canceling』の開発を進めており、アンケート調査では音声変換するだけでも30%以上の怒り抑制効果につながったと報告しています。
現在は電話口から聞こえてしまう環境音などといったノイズや、あらゆる人の声のパターンにリアルタイムで変換できるように開発を続けているそうです。
AI窓口自動切換はカスハラが発生したときに、応対を人間からAIへとエスカレーションするAIソリューションです。このAIはカスハラ対応専用にチューニングされたボイスボットで、自動応答でカスハラに該当する言動があったことを警告します。
開発を手掛けるコミュニケーションビジネスアヴェニューの製品紹介によると、エスカレーションは手動と自動どちらでも対応可能で、自動の場合は発話内容からNGとなるキーワードが含まれていないか常に監視し、キーワードが検出された場合に自動的に切り替わるそうです。
現在は実証実験段階のため、事例はまだないそうですが、今後様々なコールセンターでの活用が期待されます。
今回はコールセンター業界のカスハラの問題について説明し、カスハラ問題のソリューションとなりうる様々な技術を紹介しました。カスハラ問題は決して、オペレーターと有害な顧客だけという簡単な構図でなく、企業そして業界全体にまで影響を及ぼす問題であることをお伝えしました。
しかし、どのソリューションもカスハラを完全になくすことは難しく、一部は実証実験段階であることから、組織的なカスハラ対応の仕組み作りは不可欠であるといえるでしょう。
TACTでは、今回紹介したソリューションの1つのボイスボットの提供だけでなく、コールセンターの受託運営業務も手掛けています。コールセンターの様々な課題に対し、どちらか一方だけでなく、ボイスボットと人間の強みを同時に生かしたハイブリッドコールセンターの提案もしています。
カスハラ以外にも、もしコールセンターについてお困りごとがありましたら、お気軽にお問合せください。